2024年8月号

永久不滅のフリーエネルギーが年寄りクライシスを救う

永久不滅のフリーエネルギーが年寄りクライシスを救う

 2024年2月。日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新した。
 ニュースは、「バブル崩壊以降の長い停滞から脱した!」と浮かれていたけど、何のことはない、ぐるっと回って34年前に戻っただけ。〝失われた30年〟ってホントだった。
 その失われた時代、私はフリーのライターとして働いた。
原稿料はちっとも上がらなかった。上がらないけど頑張ったのは、「マスコミで働くってやりがいある」という幻想におぼれたから。
やりがい詐欺に引っかかって、気がつけば67歳。青春を返せ。

 それ以前から、私は重篤な年寄りクライシスに陥っていた。
 若い編集者女子が「お待たせしました〜」と向こうから走ってくるキラキラした姿に目がつぶれそうになり、コロナ禍の取材では、Zoomの画面に映ったへのへのもへじみたいな自分の顔に心が折れた。
 親は死に、老眼は進み、駅の階段でコケそうになり、チャットGPTとやらはGDPと言い間違える。年をとっていいことなんて、何ひとつありゃしない。

 で、突然、株価に話を戻しますが、日本がぐるっと回っている間に、アメリカを代表する株価指数のS&P500は、なんと9倍に跳ね上がったそうじゃないですか。日本だけが成長から取り残されていたのです。
 だったら、もう成長なんかしなくてよくない?
 この美しい国土と日本人の精神性を守って、これからは農業と観光で生きていく。ヘタに頑張らず、脱・成長戦略をぶち上げればよろしい!
 と、思ったときに思い出したのが、エッセイストの玉村豊男さんの言葉。
「今日より良い明日はない」
 かつて栄華を極め、その後凋落したポルトガルの若者が言ったんだそうですが、なんという美しき諦観!
 そうだ、そうだ。失われたものへの切ない思いを抱いてウジウジなんかせず、私も犬や猫でも愛でて今日一日を楽しく過ごしましょう。
 突如、志が低くなり、その瞬間、やっと私に安寧が訪れました。
 専門分野もない何でも屋で、何者にもなれなかった。
 だけど、ただ一つ財産といえるのは、たくさんの人に会わせていただけたことでした。

 これは秘密ですが、人と会って同じ空間に一緒にいると、ただそれだけで、その人の、何と言うかうまく表現できないけれど「良き成分」が空気伝染します。
 話の内容はさっぱり覚えてないのに、何かエネルギーをもらったような、帰り道にニヤニヤしちゃうようなあの感じ。あの正体不明の〝何か〟が、私を育ててくれたと今は確信しています。
 考えてみれば、これぞ枯渇することなき永久不滅のフリーエネルギー! 老後はこれに頼って楽しく生きていくことにいたします。

金原みはる
フリーランスのライターになって40年。主に自己啓発やビジネス分野でのインタビュー記事や書籍(著者の代筆)を書きまくりました。
ダイエット本や婚活本も得意でしたが、我が身を振り返るとまったく役に立っていません!(金原談)