2024年9月号

体内の水分「津液シンエキ」の話

体内の水分「津液シンエキ」の話

中国医学のお話も「気」「血」ときたら、最後は「津液」です。
人の体は70%が水分だといわれますが、高齢者になると50%近くに減ってしまう。
「大丈夫、私はむくみがあるから水は足りている」といった人がいましたが、残念でした、むくみは細胞外にあふれてしまった水です。よけいな水。

ところで、中国医学では独特の言葉を使うので、うっかり「津液(しんえき)」と説明すると「それ、何?」とご質問がとんできます。
「津液」とは人体の正常な水液すべてをさします。
“津”とは、サラサラして流動性が大きく、皮膚や筋肉、血液に注いで潤す液体。
“液”とは、ネバネバして流動性が小さく、関節、臓腑、脳、脊髄などの組織に注がれて滋養している体液。
普通に暮らしていれば、こんな区別はどうでもよいのですが…。
(まぎらわしいですが、以下体内の水分は「津液」と書きます)

ただし、なにか障害が起きると厳密に複雑に分けます。
「水が流れなければ、凝集して湿となり、停滞して痰となり、留まって飲となり、積もって水となる」…
ね、同じ水でも病理状態となると、湿、痰、飲、水と使い分けています。
というのも、治療に使う漢方薬が違うのだから。
湿を排泄するもの、痰を取り除くもの、それぞれ違います。
中国医学は驚くほど緻密です。

ところで、気、血、津液の中で、津液代謝の特徴は「散布」「排泄」だと考えます。
私が思うに、津液の特徴は「排泄」にある。
気や血には排泄する機能はないですから。
体内の津液の流れは、大雑把にいえば、食べ物や水分を胃に入れたら、次は肺が全身の表皮に送り、最後に腎の働きで膀胱から出す。
(途中で「三焦」という面白い考え方があるのですが、諸説あるのでここでは省略)。
出す尿の量によって水液バランスを調節しているのだから、人の体はよくできたものです。
尿のほかに汗や吐く息からも排泄しますが、どこからも出せなければ行き場がなくなって体のどこかに停滞してしまいます。
川の流れだって、水が淀んだところはあふれ出すのと同じ。
(※津液といったり水液といったり、ほんとにまぎらわしくてすみません)

溜まる場所が、皮膚にあれば浮腫み、胃にあれば嘔吐、頭にあれば頭痛やめまい、肺にあれば咳、心にあれば動悸、胸にあればつかえ、脇にあれば脹り、腸にあれば下痢、手足にあればしびれや麻痺等々、ほんとうに多種多様。
頭のてっぺんから足のつま先まであらゆるところに症状がでます。
原因は津液の停滞でも、人によってどこに症状がでるかはそれぞれですね。

体調がいまいちという方を観ると、体内の津液の散布、排泄がうまくいってない人が多い気がします。
めまいがする、胃がむかむかする、手足がむくむ(靴下の跡がとれない)、体が重だるい、頭が脹る感じ、便がやわらかい、手足が冷たい、動きたくない、なにもやる気がおきない。
舌をみると、膨らんで大きく白い苔がびっしり。
これは“湿”が悪さをしていることが多い。

今年の梅雨は湿気が多くて、空気が重かった。こんな時は、外の湿気を体が取り込んで、私も体内に湿がたまりました。
胸悶(胸がつまったような、通りが悪いような)、精神的な疲労感。疲れが抜けない。
湿が経絡を塞いだために、こんな症状がでたのでしょう。
このように外から取り込む湿を、外湿といいます。

一方、内湿というのは、胃腸が弱くて脾胃(胃腸)が湿を生みだすことをいいます。
顔色はなんだか黄色っぽくて艶がない。そして胃腸の症状が多い。
いつも具合が悪いのですが、特に梅雨時の湿気が多いときにひどくなります。内湿+外湿のダブルパンチ。
以前に、胃腸が弱くてめまいがひどい方がいました。
ちょっと動くと吐き気でベッドから起きられない、頭痛がひどくて寝てばかりいる。
或いは、夕食に揚げ物や肉を食べると翌朝むかむかして、すぐ下痢。「食べるのが怖い」状態になってしまった。
こういう場合は、症状に対処することはもちろんですが、根本的には症状がおさまっている時期に、胃腸を丈夫にすることを心がけることが大事。
気功なら胃を揉む動作をする、漢方薬なら「六君子湯」をよく使います。まあ、その方をみないとなんともいえないですが。

また、私達の年代では、象の足のように太くむくんでいる人がいます。
中国医学では、腎と膀胱の蒸散気化作用で体内の余分な水が排泄されると考えるのですが、腎の気が弱くなってくる年代では水がうまく気化・排泄されません。
湿は重いので下にたまって足がパンパンになる。
これは利尿すればよいだけでなく、腎の問題でもあるので、気功の還童功で腰をまわして腎気を強くすることをお勧めしたいところです。

津液代謝は、複雑でいろいろな臓器がかかわっているので、説明がごちゃごちゃしました。
でも、気がしっかり巡って、津液がどこかに溜まらないようにしていれば大丈夫。

疲れて動きたくないというときは、気の不足か津液(水液)が停滞して湿がたまっているか、2方向がありますが、どちらかなのか調べるには、動いてみることです。
動いた後にもっと疲れたら気が足りない。
動いたら調子がよくなったら湿がたまっている。
湿の場合は、動くのが嫌でも思い切って買い物に出かけたり、掃除をしたりするといいですよ。

次に食生活。日本は湿気が多いので、湿がたまりやすいですよね。
中国の南の地方も湿が多い。
若い頃、中国の南を旅したときに、町の食べ物屋で茯苓(ぶくりょう)という松の根っこに寄生するキノコのゼリーを売っていました。
お玉でバッと掬い取って器に入れ、ドバッとお砂糖をかけてホイと差し出されました。
茯苓(ぶくりょう)は漢方薬で使う生薬です。利尿作用があるし胃腸を丈夫にするし、これぞ薬膳ですね。
日本だったら、香りのよい薬味で湿を飛ばす「芳香化湿」かな。
紫蘇、生姜、みょうが、ねぎ等をせっせと召し上がれ。
大根は気を回しますから、これもどうぞ。

もうひとつ、津液(水液)が停滞することで困った物質ができます。それが“痰”です。
咳をすると出るネバネバの痰はそのひとつですが、ポリープや腫瘤も水湿が固まって痰になったと考えます。
「痰は気にしたがって昇降し、全身いたるところに現れる」(『類証治裁』)。
不眠やら狂ですら痰が原因の場合があります。
とはいえ、痰の診断も治療も複雑で、日常生活で対処できるほど簡単ではないので、私達ができるのは予防でしょうか。
「痰はもともとわが身の津液であり、気にしたがって運行している。気が安定していれば、津液は流布し、百骸は潤い、痰の生じる余地はない」(清代・『医編』)
この言葉を肝に銘じて、気血の巡りをよくし、体内はいつも流れてとどまらない状態にしておくこと、ですね。

深い呼吸をし、適度に体を動かし、朝日とともに起き日没の後は家の中で静かに暮らす。
暑いからといって冷たいもの、生もの、果物ばかりを摂りすぎると、湿を生むのでご注意。
気の流れは、欲求不満、怒り、鬱屈でも乱されるので、心穏やかに、いつも笑ってお過ごしくださいな。

田村亮子
国際中医師 国際医学気功師、国際中医薬膳師。
50カラット会議時代から週1回私たちに気功指南して、現在は水曜日10時からオンライン講座がある。