7センチヒールの変身をどうぞ❣️
7センチヒールの変身をどうぞ❣️
スタイルをチェックされている
クヤ先生の目が、私のお腹をジーっと見ている。「腹が出ているよ!」という合図だ。社交ダンスは「胸を引き上げ、お腹とお尻は締めて踊る!」と言われている。踊り始めは正しい姿勢を意識しているのだが、踊りだすとステップや手の振りなどに気を取られて、つい姿勢がゆるんでしまう。あわてて腹筋を締めると先生が笑いながらうなずく。時には踊る前から、「あれ、今日はお腹がちょっとふくらんでない?」なんて指摘されたり、膝がゆるんでスッと伸びていないからと、「長いスカートは禁止!当分の間ミニスカートにして!」と言われたりすることもある。というと、セクハラ?と思われかねないが、私はこうしたアドバイスをありがたく受け取っている。だって、80才にもなるおばあさんのスタイルをこんなに注意深く見てくれる人は、クヤ先生以外にいないのだから。時には「ちょっとやせた?」とほめてくれるし・・・・・・。
頭も体もフル活動
私が社交ダンスを始めたのは50代のこと。新雑誌の創刊編集長として超多忙な時だった。それまでは忙しい中でも山登りに、スキーにと月に2回くらいは出かけていたのに、休日さえまともにとれない。家人からは皮肉も込めて「終電の女!」などと呼ばれていた。そんな時に友人から「個人レッスンで夜10時までやっているから、30分時間がとれたらいつでも、そのままの格好でできる運動よ」と半ば強引に連れていかれた。始めはダンスの面白さというよりも、ステップを覚え、相手に合わせて足を踏まないよう踊るだけで精一杯だったが、仕事や人間関係など思い悩んでいることがあっても、30分間はダンスに集中せざるを得ない。終わった後は「こんな悩み、どうでもイイワ!」とストレスから開放された。超多忙なときも、定年後に手伝いに行ったストレスの多いNPO時代も、ダンスにどんなに助けられたことだろう。振り付けを覚え、パートナーの微妙な動きを読み取りながら合わせて踊る社交ダンスは、頭も感覚もフル活動させなければならないから、認知症予防に一番良いスポーツと言われている。
身体的にも社交ダンスは7㎝ヒールを履いての全身運動だから、筋力はもちろん、柔軟性もバランス力(体幹)も必要とする。山歩き(百名山踏破済み!)で足の筋力には自信があったが、ダンスをするには柔軟性が不足していると、定年後には早速ヨガも始めた。そしてラテンならルンバ、チャチャ、サンバ、ジャイブと一通りの基本ステップを覚えると、年に1回は発表会に出場するよう勧められるようになった。
悪女になったり、聖女になったり
ダンスパーティーの規模は様々だが、ホテルの宴会場で100名~300名くらいのギャラリーを前に、1組だけが3分間フロアを舞う。音響はもちろん、照明や司会もついての本格的な舞台だ。踊り子はキラキラ石のついた派手なドレスをまとい、プロのヘア、メイクもついて、大変身する。踊りたい曲に合わせて、また生徒の力量に合わせて、先生がオリジナルに振り付けをしてくれるのだが、そこで思いがけない体験をすることになる。
最初に踊った曲のエンディングは、私の開いた脚の間に先生が滑り込んでくるというものだった。が、その後に私が先生を蹴とばすと先生がコロンコロンと転がってゆき、私は一人サッサと退場!というものだった。えー!男の人をヒールで蹴るなんて・・・・・・と思いながらも快感!ミュージカルの「シカゴ」をやったときは、馬になった先生の背中に腰を下ろし、足を上げるところからスタート。ネクタイをもって男をひっぱり回すなど、思いっきりかわいい悪女を目指した。 「ルパン3世」では、不二子ちゃんとしてルパンと仲良くしながら、最後はルパンの頬をたたいて逃げ、宝石を独り占めするなど、現実にはありえない「変身」をさせてもらっている。悪女ばかりではない。森山良子の「アレ!」という曲は、固有名詞が出てこなくて、「ほら、あれよ、あれ!」で済ませる私たちボケ年代のアルアルをタンゴのリズムでコミカルに歌ったものだが、これはボケ役を楽しんだ。最新作は「愛のカタチ」という(ミーシャのとは別の)曲で、「もしもあなたがこの世を去ったら私はあなたを追うのでしょう」という純愛もの。たっぷりと愛し愛されを堪能することができた。
と書いているといかにも上手に踊っているように思われるかもしれないが、50過ぎての手習いなどたかがしれている。自己満足に過ぎないという自覚はあるが、変身はやっぱり楽しい!ちょっとでも上手に踊れることを目指して、太らないよう、下降線を下るばかりの運動能力をキープできるよう、日々精進している(?)のです。さて、次はどんな曲を踊ろうかしら?と胸ときめかせながら・・・・・・。
㈱主婦の友社の編集記者として定年まで勤め、その後「企業における女性の活躍を支援する NPO法人J-Win」に70才まで勤める。現在は某大学病院の特定認定再生医療等委員などを行っているが、この夏でほぼ卒業予定。
★クヤダンスカレッジは神保町駅より3分。九段下より5分。